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放射線を知る

空気のモニタリング

空気のモニタリングとはどのようなことを行うのでしょうか?

これまで2回に分けて「」と「排水・排気」のモニタリングについて紹介してきました。非密封の放射性物質を取り扱う放射線施設では、もう一つ重要なモニタリングとして呼吸に伴う放射性物質の体内への取り込み、その結果起こる内部被ばくを回避するため、施設設置者によって空気のモニタリング、すなわち施設内で人の常時立ち入る場所に関する空気中に含まれる放射性物質の濃度の測定が行われています。

放射線施設において空気を汚染する恐れのある非密封の放射性物質を取り扱う場合には、負圧管理されたフードや密閉状態を維持するグローブボックスなどを用います。施設によっては直接空気を汚染する恐れのない、固体状・液体状の放射性物質についてもフードなどの中で取り扱うことから、多くの場合、空気のモニタリングでは放射能濃度が検出限界未満である結果を得ることで放射性物質の体内への取り込み事象が発生していないことを確認する行為でもあります。
言い換えると、空気のモニタリングとは、当該放射線施設に立ち入る人について、有意な内部被ばくが無い、あるいは外部被ばくを考慮した場合でも年線量限度を十分下回っていることを確認するために行う、施設内で人の常時立ち入る場所に関する空気中に含まれる放射性物質の濃度の測定と言えます。

空気中の放射性物質の濃度は排水・排気中の濃度と同様に法令※1により規制されており、放射性物質の種類や化学形ごとに1週間についての平均濃度が濃度限度として規制されています。
空気中と排気中の放射能濃度測定の大きな違いとして安全を確保する対象者の違い(空気は職業人、排気は公衆)がありますが、測定実務から考えた場合、排気中の放射能濃度の測定が排気口或いは排気口に繋がる経路上の1か所で実施可能なことに対し、空気中の濃度測定の場合には常時立ち入る場所全てを対象として測定あるいは評価する必要がある点が大きく異なります。
施設内で使用する放射性物質が1種類に限定され、放射性物質の取り扱いを行う室※2、フード等の設備が1か所である場合は、放射性物質の使用に合せて空気の測定を行うことで適切な管理が実施できます。然しながら、多くの施設では複数の異なる性状の放射性物質を使用するでしょうし、幾つもの室やフード等の設備を持つ施設も多いと考えられます。このような施設で、全ての場所で全ての使用条件を対象として空気の測定を行うことは現実的でなく、実際の管理の現場では作業環境測定などによる代表点での定期的な測定(モニタリング)により法令への適合状況を確認しつつ、使用状況に合せた測定(サーベイ)を組み合わせて管理していくことになります。

  • ※1 放射性同位元素等の規制に関する法律ほか
  • ※2 放射性同位元素等の規制に関する法律では作業室など

モニタリングの結果から、空気中の放射性物質の濃度が規制に適合しているかについて評価する方法は排水・排気のモニタリングの項で紹介していることから、本項では対象に応じた測定の方法について紹介します。
空気のモニタリングでは、基本的にポンプ等で吸引した空気を放射性物質の種類や性状(ガス、ダスト)にあわせた捕集材を通過させることで捕集し、放射線の種類に応じた方法で測定を行います。対象がダスト状である場合はろ紙に通過させることで微粒子を捕集し、対象がヨウ素であれば活性炭を含侵させたフィルタ又は内部に粒子状の活性炭を封入したカートリッジを使用して捕集します。また、水(H2O)の水素と置換されたトリチウムを捕集する場合、空気中の湿分を捕集することになるため空気を冷却し凝集させるなどの方法で捕集します。
なお、簡便な方法で捕集が困難なヨウ素以外のガスの場合、通気式電離箱のように直接測定機器に測定対象の空気を取り込み、放射線による電離を観測します。    

医療・研究用の放射性物質の多くは分取などの取り扱いが容易な液体状※3で供給されていることから取り扱いに伴って直接空気を汚染する可能性は非常に低く、トリチウムのように水分子に移行して水蒸気として空気を汚染する例を除けば、溶媒が揮発し放射性物質を含む微粉末が空気中へ拡散することを抑止することにより空気の汚染を防ぐことが可能と考えられます。
前述の通り、空気のモニタリングは部分的な監視になることから、放射性物質を含む液体が飛散した際の除染処理を徹底するなどにより空気の汚染を未然に防ぐことが重要になります。    

  • ※3 凍結させた状態で供給されるケースもあります。

■ 医療・研究分野で用いられる主な放射性物質

医療・研究分野で用いられる主な放射性物質
利用分野 性状 主な放射性物質
医療 ガス ヨウ素(131、123他)、キセノン133など
ダスト ガリウム67、テクネチウム99mなど
研究 ガス トリチウム、炭素14など
ダスト リン32、硫黄35など

■ 空気中の放射性物質濃度を求めるための主な捕集方法と測定方法

医療・研究分野で用いられる主な放射性物質
放射性物質 主な捕集方法と測定方法
ヨウ素(131、123など) ・活性炭による捕集を行い、NaIシンチレーション式分析装置、
 Ge半導体分析装置等によりガンマ線スペクトル分析を行う
キセノン133など ・通気式電離箱により全ガンマ線測定を行う
ガリウム67、テクネチウム99mなど ・ろ紙による捕集を行い、NaIシンチレーション式分析装置、
 Ge半導体分析装置等によるガンマ線スペクトル分析または
 全ガンマ線測定を行う
トリチウム、炭素14 ・通気式電離箱により全ベータ線測定を行う
・液化、溶液による捕集※4を行い、液体シンチレーションカウンタによる
 低エネルギーベータ線測定を行う
リン32、硫黄35等 ・ろ紙による捕集を行いGM計数管等による全ベータ線測定を行う

※4 トリチウムは冷却凝集または水トラップ、炭素14はアミン系のCO2捕集剤を用います

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