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放射線を知る

電離箱式検出器

電離箱式検出器 幅広い活用

〇はじめに

これまで放射線検出器として「シンチレーション式検出器」と「GM管式検出器」を取り上げてきました。今回は、これらの検出器と並んで広く放射線測定機器の検出器として利用される「電離箱式検出器」について紹介します。
  一般に電離箱式検出器と言った場合は、ガンマ線やエックス線による空気の吸収線量(あるいは空気カーマや線量当量)の測定を目的とした検出器をイメージすることが多いと考えますが、電離箱式検出器の仕組みを極めて単純化すると、放射線による電離で発生した電子-イオン対を正負の電極に導くことで信号として取り出す検出器になります。すなわち、信号をパルス状に取り出すケースを考えた場合にはGM管式検出器も電離箱式検出器の一種と見なすことができますし、放射線に電離される対象が気体ではなく液体を考えたケースではカロリメータ(熱量計)も電離箱式検出器の一種と見なすことができます。

広義の電離箱と狭義の電離箱
図1 広義の電離箱と狭義の電離箱

〇空気の吸収線量を測る

電離箱式検出器は原理的に空気の吸収線量を測ることが可能であり、特に検出器の内部ガスを大気圧の空気とした場合には空気の吸収線量の定義に沿った測定が可能になります。然しながら、空気の約21%を占める酸素は軌道電子を埋めて安定するために電子を奪う傾向を持つことから、電離によって生じた電子が電極に到達することを阻害します。このため一般的な電離箱式検出器の内部ガスとしては不活性なガス、窒素や希ガス(特にアルゴン)を利用することが多くなります。
  また、自然界のバックグラウンドレベルを測定対象とする場合には検出感度を上げるために“体積を増やす”、“圧力を上げる”などの工夫を行うことも多く、国内の原子力発電所立地自治体においては14リットル・4~8気圧の球形加圧電離箱が利用されています。

〇放射性物質を含んだガスを測る

空気の吸収線量を測るほかに、電離箱式検出器の利用法として放射性ガスや放射性浮遊塵の濃度を測る通気型の電離箱があります。通気型の電離箱は、電極が納められた箱の中に測定対象となる気体を通過させることにより、通常であれば電離箱の壁で遮られてしまうアルファ線や低エネルギーのベータ線による電離を効率良く検出できます。また、通気型の電離箱は、ろ紙や活性炭による捕集が困難な希ガスの測定にも用いられます。
  医療機関において医療用の放射性希ガスを利用する場合、施設からの排気されるガスの放出管理に使用するモニタ(ガスモニタ)として通気型の電離箱が用いられます。ろ紙や活性炭を利用して希ガス以外の放射性物質を取り除いた状態で電離箱に通気することで排気中に含まれる放射性希ガスの量を測ります。なお、一般的なガスモニタではガンマ線のエネルギー情報を得られないことから、核種毎の放射能濃度を知ることはできないため、モニタには得られた電離電流と核種ごとの放射能濃度への換算表が付属されており、代表核種(通常は最も排出限界が厳しい核種)の濃度として管理することになります。

通気型電離箱で放射性希ガスを測る
図2 通気型電離箱で放射性希ガスを測る

〇ベータ線による汚染を測る

原子力発電所における放射線管理の現場では、GM管式汚染サーベイメータの測定範囲を超える汚染を評価する際に電離箱式サーベイメータが利用されています。具体的には、ベータ線を遮るキャップを付けた状態(ガンマ線)の線量率と、キャップを外した状態(ガンマ線+ベータ線)の線量率を比較することでベータ線の線量率を求め、汚染の量を評価しています。
  キャップの有無による2回測定の結果から汚染の量を求める手法は以前より利用されてきた方法ですが、正確にベータ線の線量率を得ようとする場合には少し工夫が必要なことに気が付きます。先ずキャップを付けているときにはガンマ線だけを測定できているかが課題です。原子力発電所における放射線管理で主たる監視対象になるコバルト60等の核種が放出するベータ線はエネルギーが低いため薄い樹脂製のキャップで十分遮へいされます。然しながら、ストロンチウム90など高いエネルギーのベータ線を放出する核種が存在する場合は、薄いアクリルだと一定数のベータ線は遮蔽されずに検出器に入ってしまうことから、厚みのあるアクリルなどでベータ線の遮へいが必要になります。一方、ガンマ線は一般的には透過力が高く、樹脂による遮へい効果を考慮するケースは少ないですが、アメリシウム241のような低いエネルギーのガンマ線の場合には遮へい効果を考慮する必要がでてきます。また、核種が放出するガンマ線自体のエネルギーが高い場合であっても、散乱線はエネルギーが下がるため、測定する場所のガンマ線のエネルギー分布によってはアクリルによる遮へい影響が無視できないケースがあることになります。
  キャップを外しているときのガンマ線の量は、キャップを付けているときのガンマ線の量と同じであるのかも課題です。2回測定にともなう時間変化は一旦保留するとして、キャップを外しているときに電離箱の外から内部へ、ベータ線(電子)が入るということは、コンプトン散乱(あるいは電子対生成)により生じた電子も出入することになります。電離箱内部で発生した電子は壁に到達した時点で電離箱内のガスへのエネルギー付与を終えるため、電子が電離箱の中から出ていくケースについては変化がないと考えて良いでしょう。しかし、電離箱外部で発生した電子が入射した場合は、箱内部で生じたガンマ線による電子やベータ線との見分けはつかず、測定値を押し上げることになります。また、ガンマ線と空気の相互作用は確率が低いことから影響は殆ど無視できると考えたとしても、電離箱式検出器の場合、コンプトン散乱の殆どは“箱”を構成する周囲の壁で発生します。すなわちキャップがあることにより電子の発生量が変化するため、キャップの有無でバックグラウンド自体も変わる可能性があることがわかります。

ベータ線の汚染を測る(キャップの有無による測定値の変化)
図3 ベータ線の汚染を測る(キャップの有無による測定値の変化)
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