放射線を知る
放射線を遮蔽する
放射線は、医療や産業、原子力発電など様々な分野で利用されていますが、人体や環境への影響を防ぐためには「遮蔽」が重要です。
本ページでは、放射線の種類ごとの遮蔽の考え方と、代表的な遮蔽材について分かりやすく解説します。
○放射線の種類と遮蔽の基本
放射線には、γ線(ガンマ線)、X線、β線(ベータ線)、α線(アルファ線)、中性子線などがあります。それぞれの放射線は、物質中ではその物質との相互作用によってエネルギーを失うことで減衰し、通過する量が大きく変わります。遮蔽とは、放射線源を物質で覆い、放射線の通り道を遮る(さえぎる)ことで線量を低減することです。
○γ線(X線)の遮蔽
γ線やX線は電磁波の一種で、物質中の電子との相互作用(吸収・散乱)によって減衰します。原子番号が大きく、電子密度の高い物質ほど遮蔽効果が高くなります。代表的な遮蔽材としては鉛や鉄が挙げられますが、十分な厚みがあれば水やコンクリートも有効です。
| 物質 | 密度g/cm3 | 厚さ1cm | 厚さ10cm | 厚さ100cm |
|---|---|---|---|---|
| 空気 | 約 0.0012 | 99.99% | 99.92% | 99.24% |
| 水 | 約 1.0 | 93.17% | 49.30% | 0.08% |
| コンクリート | 約 2.35 | 85.84% | 21.73% | <0.001% |
| 鉄 | 約 7.87 | 62.39% | 0.89% | <0.001% |
| 鉛 | 約 11.34 | 44.69% | 0.03% | <0.001% |
※遮蔽前の線量率を100%とした場合
(公益社団法人 日本アイソトープ協会 アイソトープ手帳12版 全質量減弱係数値から算出)
○β線の遮蔽
β線はマイナスの電荷を持つ粒子(電子)で、物質中では電気的な相互作用を受けるため、γ線やX線よりも透過力が小さく、薄い金属板などで簡単に遮蔽できます。β線のエネルギーによって飛程(到達距離)が異なり、エネルギーが高いほど遠くまで到達します。
β線の透過距離(最大飛程)cm
| 空気中 | アクリル | アルミニウム | 人体内 | |
|---|---|---|---|---|
| Cs-137(0.514MeV) | 約140 | 0.14 | 0.06 | 0.16 |
| Sr/Y-90(2.28MeV) | 約920 | 0.93 | 0.41 | 1.10 |
(公益社団法人 日本アイソトープ協会 アイソトープ手帳12版 β線の飛程式から算出)
(人体内の計算は密度1.0g/cm3で算出)
○実際のβ線遮蔽
β線が物質中で減衰するとき、制動放射線(X線)が発生することがあります。制動放射線はβ線が物質の原子核の電気的影響により軌道が曲げられる際に発生するもので、β線のエネルギーが高く、原子番号の大きい(原子核の電荷が大きい)原子で構成された物質中でより発生しやすいものです。そのため、高エネルギーのβ線を遮蔽する場合は、制動放射線の発生しにくい物質(原子番号の小さいプラスチックやゴム、アクリル等)を前方(線源側)に配置し、発生する制動放射線を遮蔽しやすい物質(原子番号の大きい鉄や鉛等)を後方に配置します。このように2種類の物質を組み合わせることで、より効果的に遮蔽することができます。

