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放射線を知る

放射線を計るということ

目に見えない放射線をどのようにすれば計ることが可能なのでしょうか?

放射線防護に用いる量に吸収線量という単位量(単位はグレイ[Gy])があり、その定義は単位質量あたりの物質が吸収したエネルギー量です。定義からわかる通り、熱を計ることで吸収線量を測定することが可能であり、実際に放射線治療分野や宇宙観測の分野ではカロリメータ(熱量計)を用いてその量を測定しています。

然しながら、例えば、空気の比熱は約1000[J/kg・℃]であるため、空気1キログラムに1グレイが吸収された場合の温度変化は約1000分の1℃、日本国内における環境放射線の水準が40ナノグレイ毎時程度(文部科学省 2010年度 環境放射能水準調査)であることを考えると、ナノは10億分の1を示す補助単位ですから、1ナノグレイの変化を捉えるには約1兆分の1℃の精度で温度を測定する必要があり、容易なことではありません。

そこで温度を測定する以外の方法として、放射線が物質中を通過する際の相互作用として「電離作用(直接的もしくは間接的に電離)」「励起作用」を利用して測定する方法があります。「電離作用」は、放射線が電荷的に中性な原子や分子が陽イオンと電子に分離する作用です。この作用で生じた電子を測定することで放射線の量を計ることができます。
電離によって生じた電子をそのまま電流として測定する方法や、電離によって生じた電子をコンデンサに導き、充放電させることにより電気パルスとして測定する方法があり、電離箱やGM管(ガイガー・ミュラー管)は、電離によって生じた電子を測定する代表的な技術です。

 

「励起作用」は、放射線がシンチレータ(蛍光体)のエネルギー状態を一時的に変化させる作用であり、このときシンチレータから放出される光(光子)を測定することで放射線の量を計ります。生じた光子を光検出素子により直接電気パルスに変換して測定する方法もありますが、光子の量が非常に少ないため、光子を電子に変換し増幅するフォトマル(光電子増倍管)を使用することで電子の数を増幅して電気パルスを得る方法が一般的です。このような方法で得た電気パルスはMCA(マルチチャンネルアナライザ/多重波高分析器)と組み合わせることで放射線のエネルギーを測定することが可能になります。

出典:環境省 「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 令和3年度版」

電離や励起といった作用以外で放射線の量を測定する方法としては、放射線が作る物理的な傷跡を数えることで放射線の量を求める固体飛跡計数法があります。プラスチックなどでできた観測用の素子に放射線(荷電粒子)が入射すると、荷電粒子が通過した経路に沿って母材を物理的に損傷させるため、その数を数えることで放射線の量を求めることができます。古くは人の目によって飛跡の形状と数を調べる方法が用いられていましたが、顕微鏡による画像を自動解析し、計数する技術が確立されています。

目に見えない放射線は、その種類や目的に合せて、熱や光、電気パルスあるいは物理的な飛跡に変換することで「放射線を計る」ことを実現しています。

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